「ねえねえ、柊くん」
休み時間の今、四方八方から視線を感じる。
教室のドアには、きっと他学年であろう生徒たちの姿が見えた。トーキョーからの転校生、を見物にきたという解釈で、ほぼ間違ってないだろう。
そんな中、声をかけてきたのは、通路を挟んで隣の席、巻き髪のハーフアップの女子。
「私、相澤スミレっていいます。よろしくね?」
小首を傾げてそう言われ、直感的に思う。
これは面倒くさいタイプだ、と。
「……」
あまり関わらないほうが良さそうだけど、無視するわけにもいかない。
これからの生活において支障をきたさない程度にしておけばいいだろう。
「……うん」
笑顔を付けるかどうか迷ったけど、由香が苦笑してるのがちらっと見えたから、結局無愛想なものになった。
それでも相澤は満足したらしく、ふわりと笑ってみせる。
それで終わるかと思ったのに、相澤は今からだとでもいうように視線を外さない。
正直、面倒くさい。
隣でボールペンの分解をしてるみどりが、羨ましくて仕方ない。
「トーキョーって、芸能人いっぱいいるって本当?」
「……さあ」
「じゃあっ、芸能人に会ったことある?」
「……まあ」
「え、すっごーい! 誰に会った?」
「……」
「私はねー、この前モデルのリカちゃんにサイン貰ってー」
助けを求めるように、一番空気が読めそうな由香を見る。
俺と目が合った由香は、苦笑しながらも助け船を出してくれた。
「スミレ、その筆箱どうしたん?」