いつもより短いお説教。今日ばかりはあたしの遅刻さえも興味ないらしい。


「トーキョー……」

「転校生……」


ひそひそと聞こえるのはその単語。教室中の視線を一身に集めた柊は、先生に促されて教卓の前に立った。

もとはと言えば、柊があたしに乗せてけって言ったのが悪いのに。あたし一人だけ怒られて、なんか理不尽だ。

ぶすっとして、非難の視線を浴びせてみるけど、猫かぶり柊さんは知らん顔で雅子先生と話している。


「佐藤柊くんね?」

「はい」

「担任の雅子です、よろしくね」

「よろしくお願いします」

「ところで今日はちょっと遅かったけど、どうしたん?」

「捨てられていた子猫を見つけて、放っておけなくて」


嘘だろ、柊さん。そんなの誰も信じないって。

そう思っていたのに、あらまあ、なんて言って雅子先生は感心したように頷いてるし。教室のみんなはトーキョーからの転校生に興味津々だし。


「助けてたところを、竹内さんが偶然通りかかって、乗せていってくれて」


なにそのシナリオ。そんな覚えは全くないんですけども。


「あら、歩きで来ようとしてたの?」

「自転車を東京に置いてきたので」

「あー……、そっかそっか」


しきりに頷いたあと、雅子先生は我に返ったように言った。


「じゃあ、自己紹介してくれる?」


柊は頷いて、あたしたちに顔を向ける。

みんながじっと、食い入るように柊を見たのを感じた。


「父親の仕事の都合で、東京から来ました、佐藤柊です。よろしくお願いします」


淡々と並べられた言葉たち。

なんかよく分からないけど、それは今までに見たことのない光景で。

ドラマのワンシーンに、名前もないクラスメイト役で存在しているような、そんな気分だった。


しばらくぼんやりその気持ちに浸ってたけど、パチパチと拍手してるみんなに気付いて、あたしも慌てて拍手した。

お父さんの仕事の都合だったんだ、と今さらながらに知った情報を頭に入れながら、教室の前に立つ転校生を見つめた。