念のため、きょろきょろと辺りを見回しながら、こっそり顎紐を緩める。ヘルメットを外すと、汗をかいていた髪の生え際がすーすーする。肩に付くか付かないかってくらいの髪の毛は、伸ばすかどうか迷い中。

自転車のハンドルのところに顎紐を引っ掛けると、ヘルメットはぶらぶらと揺れて、次第に止まる。

丸衿ブラウスの第一ボタンを開けると、首周りの窮屈さがなくなって、またすーすーした。

くすんだエンジ色のボータイはリボン結びしてたのが解けて、もはや首にぶら下がってるだけ。

膝丈のプリーツスカートはグレーっていうより、灰色だ。あ、つまり、グレーより灰色っていったほうがしっくりくる色のこと。古い感じのグレー。


「よーいしょっと!」


白のハイソックスと、白で校則ギリギリセーフのパステルピンクのラインが入ってるスニーカー。

一応舗装してあるのにガタガタのコンクリートを勢いよく蹴った。


ちょっとだけ助走をつけてから、ペダルから両足を離す。

長い長い下り坂。

だんだんスピードアップしていく自転車。風を切る音。



「やっふーう!」


坂を下れば、酒屋がある。

たいてい、店番のひょろひょろトシちゃんがペンキ剥げかけの青いベンチに腰掛けて、煙草をふかしてる。

よっぽどお客さんが来なくて暇なのか、あたしがノーヘルで通り過ぎるたびにやたらとちょっかいをかけてくる。あんな大人にはなりたくない、うん。

でも、トシちゃんが学校に言いつけることはないし、賞味期限が切れそうな駄菓子をくれたりするから、別に嫌いってわけじゃない。それをこの前言ってみたら、ゲンキンなやつだって笑われた。