ぼそぼそと呟いた柊に、いちいち聞き返している暇はない。というか、近道しなかったら学校まで30分どころじゃなくなるし。

山の中、といっても林道のようなところ。ガタガタだけど、一応道はある。


「しっかり掴まっといてよー」


それだけ言って、立ち漕ぎする。


「いやちょっと待て、ここ自転車で通るような道じゃないだろ、おい、ちょっと」


後ろでたびたび文句を言う声が聞こえたけど、そんなら自分が運転しろって話だ。

今までの仕返しとばかりに無視を貫いて、山を抜けた。


「落ちるかと思った……」

「だから掴まっといてって言ったやろー?」

「みどりの運転、雑すぎる」

「知りませーん」


ゆらゆらとアスファルトの上を進む。

ふと視線を落とすと、朝日を受けたあたし達の影が伸びていて、二人分の影に不思議な気持ちになった。


「……本当に何もない」

「ほー?」

「この町。山と田んぼと畑しかないな」

「失礼やなー」


そうは言ってみるものの、改めてこの町を見渡すとそうかもしれない。でも、何か反論したくて口を開く。


「木! 木がある!」

「それは山に含まれるだろ」

「えー……、あ、電柱とか家とか!」

「……」

「信号もある!」

「……どこに」

「え、山の向こう……」