急ブレーキをかける。
キュッと音がして減速する自転車。
「あ、気付いた」
酒屋の前に置いてある、ペンキ剥げかけの青いベンチ。
トシちゃんの特等席に座っていたのは、トシちゃんじゃなかった。
「みどり、全然変わってないな」
ゆっくりと腰を上げ、立ち尽くすあたしに近寄ってくる、その人。
くすくすと喉元で笑う、その人。
「久しぶりなのに、この町も全然変わってないし」
身長はいつの間にか、頭一つ分高くなっていた。
声はぐっと低くなって、喉仏もくっきりと見える。
どうして。
なんで。
そう言いたいのに、声にならない。
じわりと、視界が滲む。