由香とたっくんに手を振って、停めていた自転車を再度漕ぐ。
変わらないように思える二人だって、ただの幼なじみだったあの頃から随分変わった。
忘れもしない高校二年生のバレンタイン。
付き合い始めは意識しすぎてカチコチになっていた。
高校を卒業してから一度別れて、それでもよりを戻して、結婚して、今度は親になる。
確実に、変わっているのだ。
田んぼの横を大きく右に曲がる。
そして、ブレーキをかけた。
新緑で覆われた山の向こうには、藍色に見える山脈が連なっている。
眼下に広がるのは、畑と田んぼ。
ぽつりぽつりと見える茶色は、ほとんどが日本家屋で。
野口さんちの田んぼのカカシは、もう五代目だ。
ヘルメットは被っていない。
丸衿ブラウスも、膝丈スカートも、白いスニーカーもない。
運転が雑だとクレームを付けてくる乗客も。
今はもう、いない。