「せーんせーい!」
後ろから聞こえた声に振り向く。
丸衿ブラウス、膝丈スカート、白いスニーカー。大きく手を振る生徒に、あたしも手を振り返す。
「先生、ばいばーい!」
「さ、よ、う、な、ら!」
頬を膨らませれば、笑いながら去っていく。
「あ、美化班、ゴーヤの水やりよろしくー!」
「面倒くさ」
「自分たちの快適な生活のためやから、ちゃんとするんやでー!」
「えー……」
そう言いつつも水道に向かう背中。何だかんだ言いつつも根は真面目な生徒たち。口だけ立派になって、とからかえば顔を赤くしながら怒ってくる。
そんな彼らが渋々ジョウロに水を汲んでいるのを見届けて、職員用の駐車場へと足を進めた。その端のほうに置いているあたしの自転車に鍵を差し込み、サドルに跨がる。
「みどり先生、もう帰んのー?」
「先生だって早く帰りたい日もあるんですー!」
今日は珍しく職員会議も無いし、テスト期間だから部活動も無い。定時に退勤すると保護者や同僚の先生から白い目で見られる、と初任研のとき一緒になった先生は言っていたけれど、土地柄もあってか、そのあたり寛容なこの学校に配属されて本当に良かったと思う。
家に帰ったらとりあえず一息ついて、授業準備や学級通信を作るのは土日にしようかな、と頭の中でざっくり予定を立てながら、自分のクラスの生徒に手を振ってペダルを踏み込んだ。