「でも、歩きやったら間に合わんでー?」
「は?」
立ち止まった柊に合わせて、あたしもブレーキをかける。キッ、と音がした。
「だってもう8時やろ。学校まで自転車全速力で漕いでも、30分かかるし」
「……なにそれ」
「歩きって、かなり無謀やろー」
両足を地面に付けて、ヘルメットの顎紐をいじる。
「転校初日から遅刻ですかー。大変やねー」
「……」
おっと、あたしも油売ってる暇はないんだった。
ちょっと話しちゃったから、本気で漕がないと遅刻になる。
「じゃ、無事を祈る!」
手短にそれだけ言って、地面から足を離した。そのままぐん、とペダルを踏むけど。
いつまで経っても進まない自転車。不思議に思って振り向けば、荷台を両手で掴んでる柊と目が合った。
「……みどり」
にっこり、それはそれは綺麗に微笑まれた。
「こーけーる!」
「うっせ。早く漕げ」
なんで偉そうなんですか、こいつ!
他の人からしてみたら、ときめくような笑顔でも、あたしにとっては背筋を凍らせるだけのものだった。
綺麗な微笑みで命令をしてきた学ラン転校生は、何故かあたしの自転車の荷台に座っている。