待って。


そんなに満足げに笑わないで。

あたしも、言いたいことがある。

何か、言わなきゃいけないことがあるのに。



――さようなら。


違う。


――元気でね。


違う。


――今までありがとう。


違う、そうじゃなくて。



ぽろっ、と一粒の涙が落ちる。

出てきそうになる嗚咽を必死で堪える。

視界が滲む。

柊が、ぼやけて見える。


ブザー音が鳴った。

もう一度、さっきと同じアナウンスが流れた。


何か、何か、何か。



「しゅうっ」



絞り出した声は、思ったよりも小さくて。

それでも、柊には聞こえたみたいで。


ぐいっと目元を拭って、柊をじっと見つめて、口を開いた。