「……あ」
「なに?」
突然、思い出したように呟いた柊。
「なにー、柊。忘れ物ー?」
のんびりと聞いたパパさんに、柊は首を横に振って否定する。
じゃあ何だ、と続きを待っていたら。
「あー……、やっぱり別にいい」
「はい?」
なんか、煮え切らない返事。
今、絶対に何か言いかけたのに。
「柊、……」
不思議に思って、声をかけようとしたとき。
ピーッ、と聞こえた笛の音。
《――……行き、発車します……――》
途切れ途切れのアナウンス。その音は小さく、あまり聞こえなかったけど、もう発車してしまうらしい。
ふと人の気配を感じて横を見ると、煙草をくわえたままのトシちゃんが、あたしの隣に立っていた。
「ほんなら、気を付けて」
「俊彦、ありがとねー」
パパさんとトシちゃんの会話を聞きながら、あたしは柊を見る。
すると、柊もあたしを見ていて、ばっちり目が合った。