「じゃ、行ってきまーす」
「今日は事故らんといてよー」
「任せといて!」
お母さんの声に返事をしながら、ヘルメットをかぶる。
顎紐を首が絞まらない程度にして、カーポートから自転車を出した。
あたしの家は、この町の中で一番新しい家だと思う。
日曜大工が趣味のお父さんと、ガーデニングが趣味のお母さん。
山が好きな両親は、家を建てる際にこの町に来たらしい。それはあたしが生まれる前のことだから、もう十五年くらい前の話だけど。
ぐん、とペダルを踏む。がたがたのアスファルトの上を、自転車はよたよたと進み始める。
緩やかな朝の風が、首筋を撫でていった。
「……お?」
畑ひとつ挟んで、あたしの家とお隣りのトシちゃんち。そこから出てきた学ランを発見。
「おっはよー、てんこーせーい!」
「……出た」
「人をおばけみたいに言わんといてよーっ」
自転車のスピードを少し上げて、その隣に並ぶ。柊は心底迷惑そうに、眉間に皺を寄せた。
「やっぱ、柊って性格悪いんやねー」
「……」
「っていうか、あれ? 自転車は?」
鞄をリュックみたいに背負って、とぼとぼ歩いてるのを不思議に思って首を傾げる。
自転車のブレーキを軽く掴みながら、柊の歩くスピードに合わせる。
「歩きー?」
「俺、自転車持ってきてないし」
「引っ越しのときに持ってこやんかったってこと?」
「うん」
トーキョーに置いてきたってことか。
「うっかりさんやなー」
「……」
あれ、無視ですか。