「スペシャリスト?」
「この町のことなら、何でも知っとるからな!」
山道を抜けたらしく、一気に視界が開ける。遮っていた葉がなくなったことで直接日差しが当たる。
こめかみに、じっとりと汗を掻いていた。
一応、日焼け止めは塗ってあるけど、あたしの肌はもう小麦色になっているから、あまり意味はなさそうだ。来年の夏は美白を極めようかな。
こんがりと焼けた脚を見て、そんなことを思っていたら。
「……あれは」
「ん?」
何かを言いかけた柊。
言葉の続きを促すように聞き返せば、柊は真っ直ぐ前を向いたまま、再度口を開いた。
「あれは達郎の家の山で、あっちが由香の家の山で、その隣が俊彦の家の山」
「……え」
「ツツジの蜜は甘くて、五月の終わりのヤマモモは渋い」
「……」
「家から学校まで、全速力で自転車を漕いでも三十分はかかるし、」
驚いて、息を呑んだ。
喉の奥が引っ付いて、ひゅうっと掠れた音がする。
柊はそんなあたしを見て、くすっと笑って。
「靴は白を基調としたものじゃないと駄目で、各学年ひとクラスずつだから教室は全部一階にある」
「……」
「非常階段から見る朝日は綺麗だし、ベガもデネブもアルタイルも東京で見るより大きい」
「……うん」
町は、どんどん遠ざかる。
嬉しさと、苦しさと、よく分からない気持ちが心を包んでいく。