「気になる!」
「うっせ」
顔を覗き込もうとしつこくしていたら、デコピンが飛んできた。
地味に痛い額をさすりながら、また景色に視線を移す。
柊は今、どんな顔をしているんだろう。何を考えているんだろう。こんなに近くにいるのに、問えば答えが返ってくることは分かっているのに。何故だか、それが出来なかった。
鼻の奥がツンとしたから、ごまかすように息を吐く。
そうして、ゆっくりと吸った。
「……あ、」
「なに」
思わず声を漏らしたあたしを、不思議そうに柊は見る。
「秋」
「え?」
「……秋の匂いがする」
もう一度、すうっと息を吸い込む。
軽トラの排気ガスの匂いに混じって、微かに秋の匂いがした。
「秋の匂い?」
「うん」
怪訝そうに首を傾げながら、柊も息を吸う。
その様子をじっと見つめて、どう?と聞いてみると。
「……分かんないんだけど」
「えー、そう?」
「うん」
「んー……、まあ、柊には分からんかもね」
「どういう意味?」
「だって、あたしはこの町のスペシャリストやもん」
胸を張ってそう言うと、柊は顔をしかめた。