言われてみれば、そうだった。

今年の夏休みは柊と一緒にいなかった日なんて、ほとんど無い。


川で遊んだときも。

由香の誕生会も、町内清掃も。

夏祭りも、ゴーヤの収穫をしたときも。


気付けば柊は、ずっと隣にいた。



「俊彦、これはどこに置けばいい?」


段ボールを抱えた柊が戻ってきた。その声を聞いただけで、喉の奥が急にきつくなって、鼻の奥がツンとした。


心臓は、少し、苦しい。

ぎゅっと、何かに締め付けられたみたいに。



「それはあっちー」

「ん、分かった」


短く返事をして、去っていく柊の足音を聞きながら、小さく深呼吸をした。

日記はいまだ、白紙のまま。


「……シケた顔しとんなー」


ぱっと顔を上げると、あたしを覗き込むトシちゃんと目が合った。

シケた顔って、どんな顔。そう突っ込むような気分でもなくて、ただ黙ってその双眸を見つめる。


「昼ご飯、そうめんにしよか」

「え」


ふと呟いたトシちゃんに、瞬きを返す。

そんなあたしを一瞥して、立ち上がって伸びをして。


「好きな食べ物はそうめんです、やろ?」


それは、五月の終わりにあたしが口にした言葉。

にやりと笑ったトシちゃんは、そのまま台所へと消えた。