「そう言う柊は、もう書き終わったん?」
「俺は提出しないし」
「え」
なんで、と言いかけて口を噤む。
そうか。二学期にはもう、柊はこの町にいないんだ。
ああ、やっぱり、実感が湧かない。
「……おーい、柊もみども油売っとらんと、さっさと動けー」
空気を読んだのか、トシちゃんは気怠げにそう言って、しっしっ、と柊を追い払う。
面倒くさいと呟きながらも、柊は奥の部屋に戻って行く。
あたしはその後ろ姿を目で追っていた。
「……トシちゃん」
「あ?」
不意に、寂しくなった。
昔から知っているトシちゃんの声を聞いただけで、ちょっと泣きそうになるくらい、寂しくなった。
柊が、いなくなってしまう。
「……喉渇いた」
「知るか」
トシちゃんは立ち上がり、あたしの頭を軽く小突いて、台所に向かう。
何だかんだ言いつつも、こういうところでトシちゃんは優しい。
「……よしっ」
二回瞬きをして、机の上に視線を戻す。吸い殻の入った灰皿を机の角に追いやって、原稿用紙は裏向けた。
思考が鈍っているときに書けるようなものではないから、読書感想文は一旦休憩しよう。で、すぐに書けそうな日記を先に書いておこう。