「うーあー……」


ごろん。

右手にシャーペンを持ったまま、畳の上に寝転がる。

目を閉じれば、風鈴の音が小さく聞こえた。

扇風機の規則的な震動も伝わってくる。

セミの声は遠い。


あ、今なら五秒で眠れそう。

いーち、にーい、さーん、しーい……、


「踏み潰すぞ」

「ごおおぉぉぉぉおお!」


暴力反対!

飛び起きると呆れた顔をしたトシちゃんが、すぐそばに立っていた。


「おい、さっきから一文字も進んどらんぞー」

「だってトシちゃん、読書感想文とか意味分からんよ……!」

「そんなもん、適当に埋めとけ」

「四百字も書くことない……!」

「句読点いっぱい使って、改行しまくれ」

「えー……」


どうなの、それ。

そう思いつつも、原稿用紙はいまだに白紙のままで。とりあえず自分の名前だけ書いてみる。


「大体、この時期まで宿題ノータッチとか、受験生の自覚ゼロやな」

「お母さんにも言われたよ、それ……」