「自転車を置いてきたのも」
「うん」
「前の学校の制服のままっていうのも」
「うん」
「それはトーキョーに戻ることが、最初から決まってたから?」
「……、うん」
たった三ヶ月くらいなら、大丈夫だと思っていた。
東京に戻りたくても、耐えられると思っていた。
まさか、戻りたくなくなるなんて、思ってもみなかったから。
「誕生会、出来やんね」
「うん」
「バレンタインも……」
「……ごめん」
『じゃあ、荷造りしよう』
『え、今から?』
『今月の終わりには、向こうに行かないと駄目なんだよねー』
『ふーん』
今月の終わりって言ったら、ちょうど中間テストが終わる頃だ。
ぼんやりとそう思いながら単語帳に視線を落とした三ヵ月前。
『こっちの学校の友達に、ちゃんとお別れ言っておきなよー』
『どうせ戻ってくるんだし、別にいいだろ、そんなの』
『うわー、薄情だなー。そういうところ、お母さん譲りだよ』
『……へー』
『もしかしたら、向こうの暮らしに慣れて、こっちに戻ってきたくなくなるかもなー』
『いや、それは有り得ないだろ』
そんなふうに言っていた自分が嘘のように思える。
この町に、まだいたい。
一緒に過ごしたい日々があるのに。
「……ごめん」
もう一度、ぽつりと呟く。
みどりはくしゃくしゃの顔で、ただ頷いた。