「それより、みどりの髪どうなってんの?」
「え、なにが?」
「なんか、花みたいなのが取れかけてるんだけど」
「うっそお!」
頭に手を伸ばしてみるけど、何がどうなっているのか、よく分からない。
走っていたときに誰かとぶつかったような気がするから、それが原因かな。
「どこ? どうなっとるー?」
「もう少し左、……違う、右」
「どっちや」
「そこじゃなくて、あー、団子崩れそう」
「なんやと!?」
「だーから、違うって」
「分からん!」
「……あー、もう」
面倒くさげにそう言って、柊は立ち上がる。その直後、ふと辺りが暗くなったかと思えば、頭に何かが触れた。
驚いて顔をあげようとしたら。
「みどり、動くな」
すぐ近くで聞こえた柊の声。
それがあまりにも近くだったから、一瞬思考がフリーズした。
そんなあたしに構わず、柊は髪型を直してくれているらしい。ちらっと目線だけを上げると、首筋が見える。息を吸うと、日だまりの匂いがした。
うわ。
うわ、うわ、なんだこれ。
急に速くなった鼓動。落ち着けようと深呼吸したら、また日だまりの匂いがして、逆効果。
「ん、出来た」
ぐっと刺された花のピン。満足そうな柊の声が、さらに近くで聞こえる。
「あ、りがとー……」
離れていく気配がして、こっそり安堵しながら呟く。そっと花のピンを触ってみると、どういうわけか、異常に喉が渇いた。