「お、はよう?」

「……午後六時だけど」


咄嗟に出た挨拶は、ばっさりと切られる。いつもなら、何か言い返しているのに、正論すぎて何も言えない。負けた、と思いながら目を逸らすと、柊の向こうにたっくんと由香がいるのが見えた。


「由香、きっれーい!」


紺色の浴衣姿の由香は、いつもは結んでる髪の毛を右側に寄せていて、なんていうか、色気が出ている。白いうなじが特に、うん。


「これが噂のうなじ萌え……!」

「え?」


首を傾げると、色気が倍増する。舐め回すように眺めていたら、不意に由香は。


「みども可愛いねー」


ふわりと笑って、そう言うものだから、照れちゃったじゃないの。

二人できゃっきゃと盛り上がっていれば、たっくんはどこか哀愁を漂わせた目で、柊にぼそぼそと呟いていた。


「毎年こんな感じなんよ……、完全にアウェーやろ、俺……」


その表情から、そろそろ行きませんかー、って感じのオーラが滲み出ていたから、仕方なく話を中断して、あたしたちは足を進めた。




浴衣姿の女子二人と違って、たっくんと柊はいつも通りの格好。すいすいと歩いていってしまうのを、由香と二人で必死に止めて、歩幅を合わせてもらう。


「……おっそ」

「男子にはこの大変さが分からんやろね!」

「そんなに歩くの大変なら、浴衣じゃなくてもいいじゃん」

「柊さん、夢のないこと言わんのー!」


少し前をたっくんと並んで歩く柊は、こっちを見ずに鼻で笑った。