即座に否定したけど、その口元は緩んだままで。面倒くさいことになりそうだ、と溜め息を吐くと。


「ちょっとみど、どこ行くん?」

「わっ、やば!」


いきなり焦り出したみどりを、不思議に思って見れば、完全に目が泳いでいる。


「夏休みの宿題、あんた全然やってないやろー?」

「うっ!」

「遊んでばっかでいいんー?」

「ぐっ!」

「じゅーけんせーいー」


酔っ払っているというのに、そういうことには気がいくらしい。みどりの母親は、ぐいっとビールを呷って言った。

なるほど、みどりがひそひそ声だったのは、そういうことか。一人で納得していれば、再び引っ張られた腕。


「ちょっと散歩に行ってきます!」

「あ、みど!」


そう言うやいなや、駆け出したみどり。俺は、掴まれた腕によって、強制的に連行される。


「宿題は明日するからーっ!」


みどりのことだし、どうせ明日もやらないんだろうな。そうは思ったけど、別に俺が気にすることでもないだろうし口には出さなかった。

適当にそんなことを考えながら、引っ張られるままに走る、坂道の途中。

調子に乗った父親が、ひゅう、とからかうように吹いた口笛と。




「まあ、一緒にいられるのもあと少しやもんね」



みどりの母親が、ぽつりと呟いたその言葉が、後ろから聞こえた。