俊彦はゆっくりと腰を上げて、ガラスケースからラムネを取り出し、みどりに差し出す。
「ありがとー!」
嬉しそうに笑うみどりに、拾ってやった麦藁帽子を被せて、俺も俊彦からラムネを受け取る。そしてそれと引き換えに、ところどころ土の付いた軍手を、俊彦に押し付けた。
「ぷあっはー!」
「みどり、それは女子中学生の声じゃないやろ」
紫煙を吐きながら、俊彦は無精髭の生えた顎をさする。
カラン。水色の瓶の中で、ビー玉が転がる。ぐいっと上を向いて飲むと、一気に流れ込んだ冷たさが、身体の中を駆け巡る。
「しゅわしゅわやな、しゅわしゅわー」
「……何歳になっても、みどりは色気が出てこやんなー」
「わ、失礼な!」
ちりん、と風鈴の音がした。酒屋のほうに立て掛けてある簾の横の植木鉢には、朝顔が咲いていた。
「俊彦、それより腹減ったんだけど」
「このタイミングでそれを言いますか! あたしの色気の話は無視ですか!」
「うん」
「ぐお……っ!」
カラン、コロン。みどりのラムネの瓶の中で、ビー玉が転がる。
ふと、自分の影に視線を落とすと、ラムネの瓶の部分だけ、水色になっていた。