多分、俺の首の後ろに止まっていた蚊を見つけて、潰してくれたのだろうけど。
「すみません、蚊を見つけたから、条件反射で、つい……!」
「折れそう」
「わああああ、まじか!」
「嘘に決まってんだろ」
慌てたみどりが面白くて、ふっと鼻で笑い、歩き出す。
「あー、そーですかー……」
脱力したような言い方をして、みどりは小走りで俺の隣に並んだ。
そのまま歩いていれば、数分もしないうちに見慣れた風景が広がっていた。
カカシの立っている田んぼを右に曲がると、長い長い下り坂。その先に、俊彦の家があって、一筋の白い煙が伸びている。
「トシちゃーん、ラムネちょうだーい!」
ペンキ剥げかけの青いベンチに腰掛けて、煙草をふかしてる俊彦を視界に捉えると、隣にいたみどりは駆け出した。
途中で麦藁帽子が脱げたけど、どうやら気付いていないらしい。こんな下り坂で走ったら転ぶんじゃないか、と少し心配に思いながら、俺は歩いてその後を追った。
「おー、ご苦労さん」
「ラ、ム、ネ!」
「はいはい」