「なになに? ……あ、百日紅!」
「……サルスベリ?」
俺が立ち止まったのを不思議に思ったらしく、みどりも庭へと視線を向けて言った。
どこかで聞いたことのあるような気がする、その花の名前。
「あ、思い出した」
「んー?」
「青天に咲きひろげゝり百日紅」
「……はい?」
「正岡子規の句だよ」
首を傾げたみどりに短く返事をして、庭の片隅にもう一度視線を向ける。
ふーん、これが百日紅か。
鮮やかで存在感があるその花を、目に焼き付けるようにして見つめていた。
そのとき。
「……あっ!」
突然叫んだみどりの声と同時に、バチンッと短い音がした。なに、と返事をするより先に、目の前で星が飛ぶ。
「お! 潰せた!」
「……」
「ほら見てみ!」
嬉しそうにそう言って、手の平を見せてくるみどり。ちらりとそれを見ると、蚊が悲惨な姿で潰れていた。
「……みどり」
「はい!」
「いきなり叩くな」
「ぬごっ!」
叩かれた首の後ろを左手で摩りながら、右手でみどりにデコピンをすれば、いつものように奇声を上げる。