みどりに言われて思い出す。
そうだ、中村さんの山を経由して、いつも学校に行っていたんだった。
名前さえ思い出せば、あとは芋づる方式で、次々と浮かんでくる。そういえば、転校初日の帰り道で会ったような。言われるまで、すっかり忘れていた。
転校してきたのなんて、そんなに昔のことでもないのに。忘れてしまうほど、この町で経験した出来事のひとつひとつが濃くて、新鮮だったってことだろうか。
「久しぶりやねぇ、柊くん」
「そうですね」
「もうこの町には慣れたん?」
「あー……、はい、一応」
頷くと、おばあさんは目尻に皺を寄せて、嬉しそうに笑った。
「今日は中村さんちが回収の当番やったんやねー!」
「そうやよー」
「運転するなんて、おばあちゃんめっちゃ元気やな!」
「みどちゃんも相変わらず元気やねぇ」
互いに微笑みながら、さらに二言三言交わしたあと、去っていく軽トラをみどりは笑顔で見送った。
「いやー、中村のおばあちゃんは癒しやなー」
「あっそ」
「……なんか柊さん、元気ないね」
「暑いんだよ……」