「しゅーうー、そこの袋取ってちょうだーい」
「……きも」
「ひいっ、反抗期!」
大袈裟に両手で顔を覆った父親に溜め息を吐きながら、そばにあったゴミ袋を放る。
ミーンミンミン。
セミの鳴き声がやたらと大きく聞こえ、むわっと草の匂いがしている。額にかいた汗を手の甲で拭おうとすれば、俊彦が首に巻いていたタオルを投げてきた。
「それ使え」
「え、汗くさ……」
「大丈夫、まだ加齢臭はしとらんから」
別にそれは聞いていないけど。そう思いながらも適当に頷いて、結局使わせてもらった。
太陽は容赦なく照り付ける。今日は町内清掃だと俊彦が叩き起こしてきたから、訳も分からず来たけど。どうやらそれは、おもに草抜きをするらしい。
「ん、ありがと」
「おー」
タオルを返せば、俊彦はしゃがみ込んで雑草を抜いていたから、俺も軍手をはめて、近くに生えていた雑草を引き抜いてみた。
「っていうか、なんで俺まで参加させられてんの?」
「この町の住人やから」
「全員強制?」
「自分の住んどる町を綺麗にするのは当たり前やろが」
俊彦の言葉に驚いて、思わず父親を見ると。
「かゆっ、かゆいっ、誰かムヒちょうだい!」
背中を蚊に刺されたみたいだけど、手が届かないらしく、じたばたと奮闘していた。もちろん、俺も俊彦もそんな要望は無視する。