「……みどり」


すぐ隣にあった頭を睨む。


「すみませんごめんなさいすみません」

「なんで俺まで川の中にいるわけ?」

「……そこに柊の手があったから?」

「あほか」


デコピンをすると、指に付いていた水滴が跳ねて、こっちに飛んできた。

ハーフパンツ、Tシャツ、靴の中。水が浸透していくのを感じて、眉をひそめる。

心を落ち着けようと吸い込んだ空気は、川特有の生臭さ。


「さ、い、あ、く」

「すみませんごめんなさいすみません、一文字が重いです」


みどりはそう言いながらも、その視線はスイカを捉えていた。スイカが無事かどうか確かめているのだろうけど。


――なんかもう、色々考えている自分が馬鹿みたいだ。




「……ははっ」


「え?」

「ふっは」

「なになになになに?」


前髪からしたたる水滴が、きらりと光って水面に落ちる。戸惑うみどりを視界の中心に収めたら、いっそう頬が緩んだ。


こういうのも悪くないかな、なんて。

そう思ってしまう俺は、そうとうこの町に侵食されてしまったらしい。


いや。


この町、じゃなくて――……。






「おーい、大丈夫かー?」

「なんか、めっちゃ派手な音聞こえたよー?」


眩しい木漏れ日の中、心配そうに駆け寄ってきた由香と達郎。

全然大丈夫じゃない、と答えながら何とか立ち上がる。


二人の向こうには、大きな入道雲が見えていた。