ますます訳が分からなくなって、俊彦に目を向ける。
俊彦は、少し考える素振りを見せてから、口を開いた。
「お前、分家って知ってるか?」
「……なんとなく」
「もともと、同じ家に住んでた一族が、だんだん分かれてった感じだな。それぞれ結婚とか出産とかで、自分の家を持つようになったわけ」
「ふーん……」
「この町から出てった人もいるけど、大半は残ったから、野口の町になったって感じ」
へえ、と呟くと野口くんが横から言った。
「まあ、簡単に言うと、血の繋がりはうっすいけど親戚やな。そんなわけで野口多いから、俺のことは達郎って呼んで」
「私も野口だから、由香って呼んでね」
「何か分からんことがあったら、遠慮なく聞いてー」
「私に聞いてくれてもいいからね」
達郎と由香。いきなり初対面の人にそうやって呼ぶのは、あまり慣れない。
でも、さっきのみどりの話を聞いていた限り、きっとこの町では普通のことなんだろう。
「おら」
にこにこと微笑んでいる二人を眺めていると、俊彦に小突かれた。名乗れ、ということだろう。
「佐藤柊」
仕方なしに、そう小さく言えば。
「シュウか! よろしくー」
「よろしくね」
二人揃って、満面の笑みを浮かべた。