最近になって鳴き始めたセミの声が、余計に暑さを倍増させていると思う。
「っていうか、後輪がパンクしとったのって、柊の体重が原因やんな?」
「は? 違うし」
「なんかキレてらっしゃる……!」
「キレてないし」
「なんと……!」
今は、ちょうど正午くらいだろう。お腹もすいてきたから、歩く気力もない。
唯一の救いと言えば、いつも自分で背負っている鞄を、みどりの自転車のカゴに入れてあるということくらいだ。背中は少し軽い。
がたがたのアスファルトには、こじんまりと色の濃い影が出来ていた。
……あ、そういえば。
「みどり」
「なにー?」
ふと思い出して、自転車を押すみどりを呼び止める。
そして、カゴに入れてあった自分の鞄の中から、タオルを巻いてあるペットボトルを取り出した。
タオルを外すと、手に冷たさが走る。
ペットボトルの中に入れて凍らせておいた麦茶は、少し溶け出していた。
「あ、それいいな!」
「俺のものは俺のもの」
「どっかの音痴なガキ大将みたいなこと言ったな」
「ちょっと違うし」