考えたこともなかった単語が、雅子先生の口から落とされた。
驚いて目を見開く。
「教師、ですか?」
「うん」
にこっと笑って、雅子先生は続ける。
「この学校の教師になるの」
「この学校の?」
「可能性は低いけど、ゼロじゃないやろ?」
そうなのかな。
考えたこともなかったから、どういう制度か、よく知らないから分からない。
「この県の教員採用受けて、受かったら、いつかはこの学校で教師を出来るかもしれやんし」
「へー……」
「県内やったら、今の家から勤務することだって出来ると思うし」
「そっか」
「それにほら、由香も達郎も、多分家を継ぐやろ?」
要するに、あたしはこの町でみんなと、今みたいに暮らせたらいいなって思っているわけで。
生徒だったのが教師に変わるだけで、由香もたっくんもいる。
この学校の教師になれなかったとしても、この町を出なくていいかもしれない。
「まあ、聞き流しといてくれてもいいけどね。由香も達郎も、この町を出ていかんとは限らんし、ちょっとみどりの願望とは違うやろし」