口元に手を当てて、ごほごほと咳込む。柊は今にも笑い出しそうで、それを堪えてるような感じで。
あー、もう、トシちゃんはよ戻ってきてよ……。
そんなあたしの願いも虚しく、障子の向こうでは、話し声が聞こえていた。十円ガムを九円にするよう値切る小学生と、もっと買ったら安くしてやるってケチるトシちゃんの攻防戦。もうどっちでもいいやん、と思うけど、あたしも毎回小学生と同じことをしてるから、あまり強くは言えない。
ようやく落ち着いた頃には、柊の肩は小刻みに揺れていた。まったく、あたしは苦しんでたっていうのに、薄情な人だな。全然仲良くなれる気がしません。
「そんなに笑わんでも……!」
「笑ってるわけじゃ……っはは」
「思いっきり笑ってるやん!」
「いや、べつに……っはは」
「もう、しゅう!」
むっとしながら咎めるように名前を呼ぶと、ぴたりと柊は笑い止んだ。
そして、あたしを見たかと思えば。
「……?」
目が合った途端、すぐに視線を逸らした。
よく分かんないし気まずいし、あたしも柊から畳へと視線を移す。
トシちゃんはまだ戻ってくる気配がなく、妙な空気が客間を包む。そんなの知らないとでも言うように、呑気な風鈴の音がした。
どうしたらいいんだろう。あたし、こういう空気が一番苦手なんだけど。
体育座りをしたまま、意味もなく足の指をグーパーする。家に帰ったら切らないと、と伸びてきた爪を見ながら思った。
そうやってどうでもいいことを考えていると、つむじ辺りに視線を感じた。そろっと顔を上げてみると、また目が合った。