生温い風が吹き抜ける。ふくらはぎ辺りの長さに曲げたズボンの裾は、地味に落ちてきた。
立ち止まって、もう一回ずつ両足の裾を曲げる。
みどりは俺が立ち止まったことに気付くと、自転車をその場に止めた。
「そんなに言うなら、ザリガニ釣ろっか」
さっき拾った枝を持ち、腕まくりをしながら俺の隣に立つ。
「え、今から?」
「うん。さっきそこにザリガニおったし」
そう言うみどりは、やる気満々。俺に返事をさせる間もなく、今来た道を戻っていく。
「おい、荷物ここに置きっぱなし……!」
「へ? うん、邪魔やから」
「置き引きされるかも」
「大丈夫やってー、誰も取らんよ。柊は心配性やなー」
俺が心配性なんじゃなくて、みどりが無防備すぎるのだと思う。
「あ、いた」
呑気に溝の近くにしゃがみ込んだみどりに頭痛を覚えながら、結局俺もその隣にしゃがみ込んだ。
「あそこにザリガニおるやろ?」
みどりに指差されてその先を追い、溝を覗く。
確かに、底のほうに大きめのザリガニが一匹いるのが見えた。
「うん、見える」
「あれくらいの大きさが一番いいんよ。小さいザリガニってすばしっこくて、すぐ逃げていくでな」