「柊は?」
「……何が?」
「柊は、将来の夢ってあるん?」
「あー……」
少し、考えてみる。
ふと浮かんだものがあったけど、それはあまりにも抽象的で、まだぼんやりとしていて。
きっとみどりは笑わないだろうけど、言うのは気恥ずかしい。
「そんなに決まってないな」
ぼそりと言うと、みどりはどこか安心したように笑って。
「そやんなー、決まらんよなー」
そう言った。
田んぼの稲は、綺麗な黄緑色をして、風が吹くとさわさわ揺れる。
風の足跡が一瞬残って、すぐに元通りに上へ伸びた。
「それにしても柊って、本当に賢かったんやねー」
「あー……」
「私立とかすごいなー」
のんびりと呟くみどりの歩幅は狭い。それに加えて、ゆるりゆるりと歩くものだから、正直進むのは遅い。
東京だと、もっと人が忙しなく行き交って、その波に乗るように自分の足を動かす必要があった。
学校では、クラスメイトはライバルだ、と進路ガイダンスがあるたびに言われた。
大学入試を前提に勉強するのが当たり前だったような気がする。