「でも、今年の夏休みはそんなに遊べやんかなー」
「仮にも受験生やしね」
「うわー、嫌やなー……」
ちらほらと聞こえる会話。呑気そうに見えるけど、やっぱりみんな受験モードに入っていくのか。
そう思うと、どこか不思議な感じがする。
「まーまー、そんなことは考えやんと、楽しいこと考えたらいいやん!」
「ワタルは呑気すぎやわ」
「でも、今から嫌なこと考えとっても、つまらんやろー!」
「ワタルは考えなさすぎやわ」
「はー?」
「はいはい、ストップストップー」
達郎がまた止めに入る。
みどりは鶴を折ろうとしていたらしいけど、長方形だと折れないことに気付いたようだ。正方形に切ろうとしたのか、ハサミを持ち出したところで由香に止められていた。
「あ、夏休みって言ったら、森ヶ山線の運行再開する日にちが正式に決まったらしいよー」
「そうなん? 八月の終わりらへんっていうのは聞いたけど……」
「パパが言ってたんだけどー、24日になったみたいだよ」
「へー……! 楽しみやね!」
誰かが嬉しそうにそう言ったとき、ちょうどチャイムが鳴った。
みんなは慌てて自分の席へと戻っていく。
ようやく身動きが取れるようになったというのに、先生がすぐに教室に入ってきてしまって。
結局紙飛行機を飛ばせなかったみどりは、つまらなさそうに頬を膨らませていた。
鶴になる予定だった解答用紙は、折り目が付いているだけ。どうやら折るのは諦めたようだった。