何かを思い立ったらしいお母さんは、昼ドラを一時停止して、いそいそとこっちに向かってきた。
「これ、トシちゃんに渡してきてくれやん?」
差し出されたのは、何かが入った紙袋と、唐揚げの入ったタッパー。
「え、これなに?」
「漫画借りとったんよ。面白かったって言っといてー」
「なんであたしが……!」
「まあまあ、そう言わんとー」
お母さんはけらけらと笑って、あたしに無理矢理持たすと、テレビの前に戻ってしまった。
むう、と膨れてみるけど、すでに昼ドラは再生されていて。
「仕方ないなー……」
唐揚げをひとつつまみ食いして、突っかけを履き、玄関を出る。
すると、むわっとした空気が押し寄せてきた。
「あっつー!」
クーラーの利いた家の中が恋しくなる。
さっさと渡して、さっさと帰ろう。
そう思って一人で頷き、畑ひとつ挟んで隣の、トシちゃんの家まで小走りした。
酒屋の入口とは別のほうの、ちゃんとした玄関をくぐり、戸のすぐそばにあるインターホンを鳴らす。
ピーンポーン、と一般的な音がして、しばらく待っていると戸が開いた。
「はいはーい、……って、これはこれはみどちゃん!」
「あ、パパさん!」
顔を覗かせたのは、柊のパパさん。
この前会って以来、全然見ていなかったけど、相変わらず陽気だ。