柊の言うことを大人しく聞いて、再び問い掛ける。
「じゃあ、『市民政府二論』は?」
「ロック」
「『法の精神』は?」
「モンテスキュー」
「おー……!」
柊はスラスラと答える。
最初は凄いなーと思ったものの、その答え方がなんとなく面白くなくて。
「院政が始まったのは何年?」
「1086年」
「鎖国の完成は?」
「1639年」
「正長の土一揆!」
「1428年」
「うぐぐぐぐ……!」
駄目だ、なんかむかつくのは何故だ!
ぎゃふんと言わせてやりたくなってきたのに、難しそうな問題が浮かばない。
自転車は山の中へ入っていく。後ろで、柊が少し身構えたような気配がした。
「だから、慎重に漕げって!」
「これ以上無理ですー、乗客は黙ってて下さいー」
ガタガタと林道のようなここを突っ切る。
「運動エネルギーと位置エネルギーの和は?」
「力学的エネルギー」
「一直線上を同じ速さで動く運動は!」
「等速直線運動」
「1+1=?」
「は? え、普通に2じゃねーの」
「ぶっぶー、田んぼの“田”でしたー」
してやったり。
やっと柊が間違えてくれたことに満足して、笑顔を浮かべていると、後ろからヘルメットを小突かれた。