「この仕事をしてきて、感謝されたのは初めてだった」
「拓海先輩……」
「あの笑顔を見た瞬間、正直、心動かされた。お前の言う、一歩を踏み出せない背中を、押してやるっていう意味がわかった気がする」
拓海先輩が、私を見つめる。
その瞳の深さに、思わず吸い込まれそうになった。
ドキドキして息苦しい。なにこれ、恋する乙女じゃあるまいし。イケメンに見つめられれば誰しもこうなるわけで……と、心の中では言い訳のオンパレードだった。
「お前は……」
何を言われるのかと、ゴクリと唾を飲み込む。
「変なやつだ」
「…………」
一瞬、時が止まる。否、思考回路が停止する。
「……はい?」
次に何を言われるのかと、ハラハラしていた自分がバカだった。さっきまでの胸の高鳴りも、急速に沈下していく。
──変な……やつとな?
真剣な顔して急に何を言い出すのかと思ったら、呆れた。
「なんだ、その不満そうな顔は」
「不満ですよ!何言ってるんですか!」
「褒め言葉のつもりだったんだが……」
「え、どこが……どこが!?」
今の一言に、私を褒めるワードがあっただろうか。いや、どんなに考えても変人扱いされたとしか受け取れない。