てっきりひどく責められ、詰られると思っていたから、お母さんの反応は、私にとってはかなり意外なものだった。


意表を突かれて黙りこんでいると、お母さんは私から身を離し、私たちの部屋の奥へと視線を走らせた。



「………陸は?」



低い声でお母さんが訊ねる。


私は聞こえないふりをした。



お母さんはちらりと私を見てから、黙って私を押しのけ、部屋に上がり込んだ。


私は慌てて引き止めようとしたけど、間に合わない。



「陸、いるんでしょう」



私は「いない」と答える。



「いないよ、お兄ちゃんはいない。ここは私の一人暮らし」



お母さんの腕をつかみ、必死にそう言う。


でも、お母さんは眉を寄せただけだった。



「海、嘘はやめて。この本」



お母さんがベッドの脇に置いてあった分厚い文庫本を指差す。



「この本は、陸の………お兄ちゃんのでしょう」



ちがう、わたしの、と答えたけど、私が本など読まないことを知っているお母さんは、首を横に振った。



「………どうして」



お母さんがしぼりだすように声をもらす。


その悲しそうな視線は、ついさっきまで私とリクが愛し合っていたベッドのシーツに注がれている。



「どうして、こんなことになっちゃったの………」



お母さんは泣いた。


私は立ちすくみ、黙ってお母さんを眺めていた。