この部屋にエデンという名前をつけてから、私は毎日、楽園について思いを巡らせるようになった。



アダムとイヴがいた楽園は、どんなところだったのだろう。


私とリクの楽園は、この綺麗な真っ白の部屋。


じゃあ、最初の人類の楽園は?



ねえリク。

楽園ってどんなところだと思う?



訊ねると、リクがくすりと笑った。



まだそんなことを考えていたのか、ウミは。

夢見がちだな。



いいでしょ、夢は見るためにあるんだから。



あいかわらず屁理屈ばっかりだな。

物心ついたばっかりの頃から、ウミは何も変わってない。

理屈屋の文句たれ。



そりゃそうだよ、だって私は私だもん。

リクだって全然変わってないよ。

昔から私のことからかってばっかり。



………そして昔から私には格別に優しい、という一言は、胸の奥にしまっておく。

口に出すのはもったいないから、私の中にずっと隠して、大切に大切にあたためておくのだ。



ねえ、それより、楽園について考えようよ。

リクはどんなところだと思う?

エデンの園って。



エデンには、生命の樹が生えているそうだよ。



生命の樹?

どんな樹かな。



分からないけど、きっと、黒い樹だよ。

つやつやと光沢のある、新月の夜の闇みたいに深い漆黒の樹皮をしているんだ。



素敵ね。

きっとその真っ黒な樹の中に、輝く生命がぎっしり詰まっていて、春になると真珠みたいに艶めく白い葉っぱが芽生えるんだ。



綺麗だね。



うん、綺麗。