「ねえ、ほんもののエデンは、どんなところかな………」


「そうだな………」



リクも夢を見るように目を閉じる。



「きっと………太陽の光を受けてきらきらと輝く宝石のような綺麗なせせらぎが流れているよ」



瞼の裏に、美しい小川の映像が浮かんだ。

水面で複雑に陽光を反射させ、屈折させ、あたりを真っ白な光で満たす川。


その水はびっくりするほど透明で清らかで、触れると冷たくて、口に含むとほんのり甘くて、飲み干してしまいたいくらい美味しいのだ。



「………ああ、素敵。ほんもののエデンでは、お腹が空いたら果物を食べて、喉が渇いたら川の水を飲めばいいんだね」


「そうだよ。その小川の周りには、たくさんの植物が生えている。目が覚めるほど鮮やかな緑の水草と、そして、そこらじゅうに真っ赤な花が咲き乱れているんだ」



エデンの地を埋めつくす、燃えるように真っ赤な、夕陽のように真っ赤な、―――血のように真っ赤な花たち。


なんだか、怖くなった。


私はリクに抱きつき、その首筋に頬を寄せ、リクの真似をして窓の外をじっと見つめる。



窓硝子の向こうをおそろしい速さで通りすぎていく街の景色。


私たちが暮らした街。


どんどん、どんどん遠くへ、離れていってしまう。


消えていってしまう。



馴れ親しんだ街は、もう手に入らない。


もう私のものではない。



あの街を私たちは捨てた。


あの街も私たちを捨てる。