「………海………」



ゆらりと起き上がったお母さんの顔は、右半分が真っ赤な血に染まっていた。


それを見た瞬間、私は思いきり地面を蹴り、全力で駆け出して、その場から離れた。



息を切らしながら走る。


頭が真っ白で、網膜に焼きついた赤が離れなくて、私はただひたすら、どこへともなく走る。



どんっと何かにぶつかり、はっと我にかえって目をあげると、そこには私の肩をつかむリクがいた。



「ウミ………どうしたんだ?」



目を丸くして私を見下ろすリク。


私のリク。



「………お母さんが、来た」



ぽろりと呟くと、リクは一瞬目を見開いてから、ぎゅっと私を抱きしめた。


リクは何も言わない。


だから、私はリクの首に腕をまわし、全身で甘えながら言う。



「リク………逃げよう。楽園に行こう。誰も私たちを邪魔しないところに」



かすれた声をしぼりだすように言うと、リクは小さく頷いて、それから私の走ってきたほうへと視線を走らせた。



かあさんごめん、と声もなくつぶやいたのが、唇の動きで分かった。


私も声には出さずに、お母さんごめんね、と呟く。



お母さん、ごめん。

でも、もう、どうしようもないの。

私とリクは離れられないの。

愛し合ってしまったの。