気がついたら、手をあげていた。


私は無意識にお母さんを突き飛ばしていた。



その瞬間の、お母さんの驚いたような、大きく目を剥いた表情。


そういえば私はお母さんに反抗したことなんて一度もなかった。



リクとのことが知られてしまったときも、それで叱られて泣かれたときも、私は反論のひとつもせず、こっそりと家を抜け出して、リクと逃げたのだ。



そうか、だからお母さんは分かってないんだ。

私とリクが本当に愛し合ってるって。



「………海!」



お母さんは再び、私にすがりついてきた。


私は黙って踵を返し、玄関の外に向かう。



「海、どこに行くの。お母さんと一緒に家に帰るの?」


「ちがう、帰らない。私は一生リクと二人で暮らすんだから」


「なんてことを………そんなこと許されるわけがないでしょう! 間違っているのよ!」


「許されたくなんかない、間違ってなんかない」


「海!」



お母さんは悲鳴をあげて、私の腕をつかんだ。


引きずるようにして、外に停めてあった車に乗せようとする。



私は全力で拒否する。


お母さんはさらに引っ張る。


手を振り払って駆け出そうとすると、お母さんが全身でしがみついてきた。



「やめて! 私とリクの邪魔をしないで!」



私は叫んで、お母さんを突き飛ばした。


今度は正気で、本気で。



お母さんが頭から地面に倒れ伏した。


ごんっと鈍く重い音がした。