彼は、私が生まれて初めて愛した人で、一生を捧げると決めた相手だった。



恋を知らなかった私に、彼は情熱を教えてくれた。


愛を知らなかった私に、彼は幸福を与えてくれた。



このひとと生きていくのだ、と強く思った。


君と生きていきたい、と彼も言ってくれた。



………それなのに、彼は突然、私の前から姿を消した。


私は吐きそうなほどの恐怖と戦いながら待った。


待って、待って、待って、

そうして何日も経ってから、彼は、冷たく硬くなった身体で帰ってきた。



かたく閉じられた瞼は、もう二度と、美しい瞳を覗かせることはない。


土気色になった目尻は、もう二度と、あの優しげな笑い皺を刻まない。


青い唇は、もう二度と、私への愛を囁かない。



そのことを確認した私は、そのまま気を失って倒れ、

目覚めたときには彼のことを忘れていた。


忘れるしかなかった。

忘れなければ、生きていられなかった。



忘れてしまいなさい、と誰かが言ったのだ。

そういう運命だったのよ、仕方がないのよ、と。


だから私は忘れた。

死にかけていた心を、ごまかしながらでも生かすために。