はっと空想から醒めて陽さんを見ると、形の好い薄い唇がうっすらと開いていた。


ほっそりとした指が、唇の隙間にチョコレートを差し込む。


真っ赤な舌が白い歯の間からちらりと覗いて、舌先がチョコレートに触れるのが見えた。



ぞくぞくと震えがくる。


唐突に、泣きたくなった。

歓喜と幸福感のあまり。



もうすぐ陽さんが私のものになる。


徐々に体温を失って硬くなっていく身体を、私は力いっぱい抱き締める。


冷たくなった唇に、何度も何度もくちづける。



その瞬間を待ちわびて、私は陽さんの中に飲み込まれていく毒入りのチョコレートを見つめた。



「………あまい」



陽さんが呟いた。


口の中でころりと転がしている。



「あまい」



確かめるようにもう一度言って、陽さんは口を開いた。


その口の中はチョコレート色に蹂躙されている。



陽さんが舌を差し出した。


真ん中に、どろどろに蕩けはじめたチョコレートの残骸がのっている。



陽さんは押し黙ったまま、まっすぐな視線で私の瞳を射抜く。


見つめ返していると、さらに大きく開いた口の中で、チョコレートにまみれた舌が蠢いた。


誘惑するように。