陽さんがことん、とペットボトルをサイドテーブルに置いた。



それを合図にしたように、私は「ねえ、陽さん」と呼ぶ。



「これ、作ったの」



掌にのせたチョコレートを陽さんに見せる。


熱を失ったはずなのに、私の肌に触れたチョコレートは、すでにゆるゆると輪郭を崩しはじめていた。



「溶けてるじゃないか」



陽さんが眉根を寄せて私を見つめ返す。


私は何も言わずに掌を差し出して、「食べて」と言った。



「お願い、食べて」



陽さんはやっぱり怪訝そうに私を見ていたけれど、しばらくして、煙草を灰皿に押しつけた。


長い指を伸ばして、私の掌からチョコレートを摘まみとる。



陽さんの指が口許にチョコレートを運んでいくのが、スローモーションに見える。


私は瞬きすらできずに、それを凝視している。




毒入りのチョコレート。



これを食べたら、きっとすぐに陽さんは死ぬ。


呼吸できなくなって、喉をかきむしりながら、空気を求めて喘ぐだろう。


そして、強い視線で私を見るだろう。

驚愕と恐怖と憎悪の瞳で。



なんで、と言うかもしれない。


あいしてるわ、と私は答えるだろう。



あいしてるの、あなたを。


あいしてる、あいしてる、あいしてる。



私の呪文を聞きながら、陽さんは永遠の眠りにつくだろう。


チョコレートの混じった真っ赤な血を吐きながら。