「二人とは距離取れって、あなたたちは言いたいんだよね? でもごめんなさい、無理。私、しばらくはあの人たちと一緒にいるつもりなんだ」


彼女たちの感情を逆なでしないように、しかしはっきりと言った。
しかしそれも上手く行かなかったらしい。
彼女たちは「ハァ⁉」と奇妙にハモった。


「何その言い方!」

「しばらくって、どういうこと? 飽きたらおしまい?」

「サイテー!」

「……いや、もうどう受け取ってもらってもいいよ」


こうなると、まともな会話は望めないことは分かる。
ため息交じりに言うと、彼女たちはますますキーキーと声を出す。

ああもうこれ、どうしよう。
だけど、ハイ分かりました離れます、なんて言えないわけで。
と、集団の中では少しだけ大人しかった一人の女の子が、「福原さんさあ」とゆっくりと口を開いた。


「月下中学の子から聞いたんだけど、福原さんさあ、中学の時いじめに遭ってたんだってね」

「は?」


急に中学時代のことを言われて、驚く。
今、その話関係ある?
彼女は私の方を見ながら続ける。


「けっこうひどいいじめだったって。でも、それを庇ってくれたのが、美月だったんでしょ。美月が先生に報告してくれて、先生が動いて、それでいじめがなくなったって話」


それほんと? と周囲の女の子たちが言い、私と彼女を交互に見る。


「……うん。そうだけど」


嘘をつくつもりはない。
私はこっくりと頷いた。


「美月に恩があるのに、福原さんはそんなことするんだね。それって、人として最低じゃない?」

「……私には私の事情も考えもがある。ただ、それをいちいちあなたたちに説明する気はないから、どう思ってもらってもいいよ」


私の思いを、誰に言うつもりもない。
だから、どう思われたっていい。

ただ、昔の嫌な思い出を急にほじくり返されたのは、やっぱりちょっと不快。
不愉快を思いきり声に滲ませた。