あの日のきみを今も憶えている

「お弁当作って欲しいと言われたから、作ってる。私が押し付けているわけじゃないよ」


万が一のことがあればそう言うように、と穂積くんから言われていた言葉を言う。
しかしあんまり効力がなかったようだ。

むしろ、火に油?
彼女たちは表情を一際厳しくした。


「何ソレ、自慢?」

「あんたさあ、五組の前田と付き合ってなかった?」

「嘘! 前田くん? なんで前田くんがこんな女と⁉」

「えっと、前田くんとは付き合ってません。少し仲良くしてただけだし」


すっかり忘れていた名前を聞き、訂正を入れる。
しかし彼女たちはますます怒り出す。


「うわ、この女、手当たり次第ってわけ? 怖っ」

「大人しそうな顔して、やばーい。穂積、騙されてるんじゃないの?」

「分かってんのかなー、穂積。何も知らないまま、園田くんまで巻き込んでるんじゃないよね?」


少しだけ、足が竦む。
むき出しの敵意はとても、嫌なものだ。
望んでいない色が、無理やりキャンバスに広がっていく感じ。
大事なものを塗りつぶすそれは、嫌。

こんな時、私はキャンバスを見ないふりをしてきた。
私の絵は誰にも汚されていないのだと、言い聞かせてきた。

だけど、今は見ないふりをしていられない。
というより、イライラしてさえいた。


ああ、うるさい。
二人と仲良くしてる私が気に食わないんだろうけど、そうならそうとはっきり言えばいいのに。
遠回しに言ってるつもりかもしれないけど、意図はダダ洩れなんだからね。

イライラしながら、美月ちゃんをちらりと見る。
こんな中、彼女はぐっすりと眠っている。その安らかな寝顔を見ていると、不思議とイライラが消える。

この子はいつも園田くんを独り占めできて、穂積くんとも仲良くしてたけど、反感を買ったことなんてなかった。
私とは、人徳が違うっていうやつだよなあ。
すごいわホント。