「まあ、陽鶴ちゃんに笑いかけたって確かに怒らないだろうけどさ。
でも、陽鶴ちゃんが困るよね。ほら、めっちゃ動揺してるじゃん」


私を見た穂積くんがクスクスと笑う。
むっとした顔をした園田くんが私に「困らないよな?」と訊く。


「困りは、しないよな?」

「へ? うん、しないしない。少しびっくりしただけ」


慌てて言うと、園田くんがにっと笑った。


「よかった!」

「う、うん」


それから、私たちはいつものように一緒に帰る約束をして、別れた。


部室に戻ろうと食堂を出て渡り廊下を歩いていると、「ねえ」と声を掛けられた。
見れば、女子陸上部のメンバーが数人立っている。
みんな、怒っているように眉をぎゅっと寄せていた。


「私?」

「そう、福原さんに声かけてんの。あんたさあ、あんまり調子に乗らないでよね」

「は?」

「死んだ美月のこと、もっと考えてくれない? 自分が死んでまだ日にち経ってないのに、もう他の女が纏わりついてるなんて、嫌でしょ」

「だいたい、どうやって穂積に近づいたの?」

「毎日これ見よがしに弁当なんて作ってきてさ、マジであざといんだけど」


彼女たちが口々に言う。
どうやら、私は彼女たちの反感を買っているらしい。
せっかくの穂積くんの案だったけど、そろそろ効果が切れてきたのか。