「杏里、また距離感間違ってる」


ぱくぱくと口の開け閉めをしてしまっていると、間に穂積くんが入ってくれた。


「お前、それ気を付けるべきだっただろ」

「え? あ、ホント? やべ」


園田くんがぱっと私の手を離し、ぱちぱちと瞬きをした。それから私に、「ごめん」と頭を下げる。


「え? ええと?」


動揺しまくってしまった私が、答えを求めるべく穂積くんを見ると、にやっと笑った。


「びっくりしたろ? これが、こいつの悪い癖なんだ」

「悪い、癖?」

「そう。ちょっと気を許すと、途端に距離感縮めてくるんだ。杏里は、元々はすごく人懐っこいんだよ」


ええ⁉
驚いて園田くんを見ると、驚いたことに頬を少し赤らめてぷいっと顔を逸らした。


「そういうの、女の子を勘違いさせちゃうことも多くなるだろ。で、美月ちゃんが嫌だなって言ったらしくて、それで気を付けてるんだ」

「ほ、ほう」


そう言えば。
美月ちゃんと付き合う前の園田くんは、誰にでも笑いかける人だった。
もう何年も『美月ちゃんだけ』だったから、すっかり忘れてた。

それから、熟睡中の美月ちゃんをちらりと見てそっと笑った。

美月ちゃんも、そういう嫉妬をするんだ。なんだか、可愛い。
そして、その嫉妬を彼女にさせまいと気を付けてる園田くんも、可愛い。


「でもさ! 福原さんなら、美月も嫌がらないと思う!」


ふいに園田くんが言うので顔を向ける。


「え?」

「福原さんならいいって言うと思うし!」


子供みたいに、ほっぺたをぷうと膨らませて言う園田くんは、私の知ってる園田くんと少し違う。
くるくると、今まで見たことのない表情を見せる園田くんに驚きっぱなしだ、私。