そんな私は、一年生の冬から春先まで、集中して絵を描いていた。
通称『こうこうび』、『高校国際美術展』向けの作品である。

この絵は本当に気合を入れて取りかかっていたので、一年の冬に告白してくれた前田くんを、まあ、ほぼ放置していたのだった。
しかしそれも五月に終わり、秋の文化祭用の絵を描くにもまだ時間があるのでそろそろ前田くんのことも考えなくちゃと思っていた、のに。


「時間とれるようになったし、ちゃんと相手しようとしてたんだよ?」

「へーえ」

「私も年頃女子なわけだし、彼氏欲しいなって思ってたもん」

「へーえ」

「ああ、残念だなあ」


再びジュースを飲みながら言うと、明日香が「じゃあさ」と言った。


「じゃあ、私が合コンするからおいでって言ったら、来る? 新しい出会いを求めればいいでしょ」

「あー、それは、ヤダ?」


てへ、と笑って首を傾げてみる。
合コンて、苦手だ。
だって何を話していいか分かんないし、あの妙な雰囲気とかノリが合わない。

会話のツナギにピカソの薔薇の時代について語りだす女なんて、きっと向こうだって願い下げだろう。きっとね。
今回のことで、私は学びましたとも。


「ほらね。もう、陽鶴ってば彼氏欲しいなんて口ばっかり」

「欲しいのは、欲しいよ」


温くても、のどを潤したい。
私はじゅるじゅると音を立ててジュースを飲んだ。しかしそれも、すぐに吹き出してしまう羽目になった。


「それってさ、誰でもってわけじゃなくて好きな人とってことでしょ? いい加減告白したら?」


と明日香がさらりと言ってのけたからだ。


「ど、どうし……てっ! わ、たし、好きな人……とか!」


むせ返ってげほげほと咳込みながら言う私を見て、明日香はため息をついた。