あの日のきみを今も憶えている

……え?


階段から投げ出されるように、私の体は前に大きく傾いだ。
手にした段ボールが手の中から放り出され、空を舞う。


「ヒィ! 危ない!」

「福原!」


私の横にいた美月ちゃんが手を伸ばすのが視界の端で見えた。杉田先生の声が聞こえる。

ああ、落ちる。


美月ちゃんが私を抱きかかえようとするように飛ぶ。
そんなことしなくていいよ、私の体をすり抜けちゃうよ、とちらりと思った。

そして私は、次に来るであろう痛みに備えて、目をぎゅっと閉じた。

床に叩きつけられた石膏が、ガチャンと音を立てて割れる。
私の体は、飛びだしてきた人によって抱きかかえられ、床との衝突を避けることができた。


「大丈夫か、福原⁉」


咄嗟に私を抱えてくれたのは、杉田先生であったらしい。
無駄だと思っていた逞しい腕が、しっかりと私を救ってくれた。


「福原! 福原⁉」


顔を覗き込んでくる先生の焦った顔が見える。


「え? あ……。大、丈夫……です」

「よし、よかった。歩けるか? 手は大丈夫か? 指は? 動かしてみろ! うん、よし!」


私の無事を確認した先生が、ほっとした顔をみせる。しかし次の瞬間、般若の形相に変わった。


「そこの貴様ら二人ぃ、ぶっとばすぞコラァァ! 俺のプシュケを壊しやがって、生きていられると思うなよ、オラァ!」


へたり込んだままの私を置いて、先生は男子に怒鳴って向かって行った。


「す、すんません、先生!」

「わざとじゃないんですぅ!」

「わざとだったら命はねえよ、アホが!」


逃げようとする二人の首元をひっつかんで、先生は私を振り返った。


「福原! すまんが、後でその段ボールを職員室に持って来てくれ。ほら、お前ら二人はこっち来い!」


先生はそう言うと、男子二人を連れてずんずんと去って行った。